フェムテック導入事例

 近年、女性の健康課題に対する企業の意識が大きく変化しています。月経や更年期、不妊治療など、従来「個人の問題」とされてきたテーマが、企業経営や人材戦略、ESG投資、健康経営の文脈で注目を集めています。
 その中で、“フェムテック(FemTech)”は、単なる福利厚生の枠を超え、企業の価値向上を支える戦略的な取り組みとして導入が進んでいます。

 本ページでは、国内外の企業や自治体がどのようにフェムテックを導入し、実際の職場環境改善や企業評価の向上につなげているのか──一次情報をもとに、写真・発信内容をそのままの形でご紹介します。 ぜひ、貴社の取り組み検討にお役立てください。

小田急電鉄株式会社

※画像:https://fem-x.jp/
小田急電鉄(日本)は、鉄道業界という男性社員比率の高い職場において、女性社員が安心して働ける環境づくりを目指しフェムテックを導入した事例です。
同社ではまず、社内の意識改革として管理職向けの研修セミナーを実施しました。このセミナーでは外部講師を招き、妊活や不妊治療に関する正しい知識や職場での配慮事項について学ぶ機会を設けました。

 背景には、男性社員(将来の父親)が不妊治療について上司に相談しづらい風土や、管理職側の無理解・無意識の偏見といった課題があったためです。研修を通じて管理職自身がそうした思い込みに気づき、部下から相談を受けた際に適切に対応できるようになることを狙いました。

 受講した管理職からは「思い込みや無意識の偏見に気づく良い機会になった」との声が上がっており、社内の風土醸成に寄与しています。加えて同社は、社員本人および配偶者の不妊治療の実質的な支援にも踏み出しました。
 具体的には、株式会社ファミワンが提供する不妊治療相談サービス「ファミワン」を導入し、社員がLINEアプリを通じて不妊症看護認定看護師や胚培養士など専門家に匿名で相談できる仕組みを整えました。

 これにより、通院中の社員が治療と仕事の両立に関する不安や悩みを気軽に専門家に相談し、アドバイスを得ることができます。同時に、医師と直接話せるオンライン診療サービス「産婦人科オンライン」も導入し、婦人科系の悩みについて医師にリアルタイムで相談したりセカンドオピニオンを得たりできる環境を提供しています。

 これらのサービスは忙しくて病院に行きづらい社員に特に好評で、不妊治療と業務の両立支援として効果を上げています。 さらに小田急電鉄では、社員が利用できる制度面の整備として、従来から認められている生理休暇制度の周知・利用促進にも注力しています(制度名称をより取得しやすいよう「M休暇」と称するなどの工夫を実施。

 また、社内の健康管理室に産業保健スタッフを常駐させ、オンラインでの健康相談にも応じる体制を整えるなど、女性特有の健康課題に会社として包括的に取り組んでいます。

 これら一連の施策により、小田急電鉄は従業員がライフイベントを経ても働き続けられる職場環境を構築し、多様な人材の活躍推進を図っています。

株式会社moN(兵庫県加古川市)

※画像:公式サイトより
女性の身体やデリケートゾーンに関する正しい知識を重視し、教育プログラムを提供。一般社団法人future beauty協会と連携し、フェムテック事業への参入支援や介護予防的フェムケアの全国展開を目指しています。

ウォルマート(米国)

※画像:https://femtechinsider.com/kindbody-100m-raise/
ウォルマートは2022年9月、従業員向けの不妊治療・家族形成支援として、米国のフェムテック企業Kindbodyと提携することを発表しました。
フルタイム・パートタイム問わず全従業員とその扶養家族が対象で、不妊治療に関する評価や教育、卵子・精子の保存、遺伝子検査、体外受精(IVF)、子宮内授精(IUI)など包括的なサービスへのアクセスが提供されます。

さらに、代理出産および養子縁組に関する費用補助も福利厚生に含まれており、年間1万ドル・生涯最大2万ドルまで会社が支援します。このプログラム導入の背景には従業員からの強い要望があり、「支援策発表後、社員から問い合わせが殺到するほど反響が大きかった」とされています。
ウォルマートは従業員の声を受けて不妊治療支援を拡充し、競争の激しい労働市場で人材の定着・確保を図る狙いもあります。
また、2022年11月1日に不妊治療の専門拠点「センター・オブ・エクセレンス(COE)」を開設し、同日より全米30か所のKindbodyクリニックへのアクセス提供を開始しました。
併せて、2023年1月1日から代理出産・養子縁組支援制度の拡大も実施されています。
ウォルマートはすでに出産支援やドゥーラ(出産付添人)サービス拡充なども進めており、こうした包括的支援によって社員の仕事と家庭の両立を後押ししています

マイクロソフト(米国)

※画像:https://techstartups.com/2024/10/08/womens-health-startup-maven-clinic-closes-125-million-in-funding-at-a-1-7-billion-valuation/
マイクロソフトは2023年7月、従業員の更年期(メノポーズ)に対する支援サービスをグローバルで導入しました。
具体的には、米国のデジタルヘルス企業Maven Clinic(メイヴン・クリニック)が提供する更年期サポートプログラムを活用し、従業員が専門の医療提供者にオンラインで相談できる体制を整えています。
導入後わずか2ヶ月間で、世界58か国の社員による専門家との相談件数が3,000件を超えたと報じられており、グローバル企業の幅広い従業員層にリーチした施策となっています。
更年期症状(ほてり、睡眠障害、認知機能の低下など)は働く上でパフォーマンスに影響を及ぼすことがあり、特に管理職年代の女性にとって重大な課題です。マイクロソフトはこうした課題に対応し、社員がキャリアを中断することなく活躍し続けられるよう支援する目的で本サービスを導入しました。

アドビ(米国)

※画像:公式サイトより
アドビ(米国)は従業員のウェルビーイング向上を目的として、2022年10月に福利厚生プログラムを拡充し、ヨーロッパの従業員を対象に不妊治療支援や更年期ケアを新たに導入しました。
具体的には、イギリスのフェムテック企業Peppy(ペッピー)のプラットフォームを通じてサービスを提供し、社員およびその配偶者・パートナーは「Peppy更年期」や「Peppy不妊治療」サービスに無料でアクセスできます。

これにより、更年期や妊活に関する専門家への1対1相談(チャット・ビデオ通話)や、オンラインの情報リソース、グループチャット等を利用できるようになりました。
加えて、欧州従業員向けに新たな有給家族休暇制度も導入されており、出産や育児だけでなく更年期を含めた包括的な支援体制を整備しています。
この施策は、アドビが掲げる「社員の身体的・精神的ウェルビーイングを会社全体で支える」という方針の一環として実施されました。
同社は従来から不妊治療補助や十分な育児休業制度など先進的な福利厚生を提供してきましたが、社員のニーズ調査を踏まえ、更年期ケアという新領域を含めた支援拡充に踏み切ったものです。

特にヨーロッパ地域では初めて更年期サポートを正式導入した例となり、アドビの担当者は「社員とそのパートナーが専門家への無料相談やリソースを活用できるようにした」と述べています。
このように企業文化として健康課題のオープンな対話を促しながら、社員一人ひとりのライフステージに寄り添った支援を提供しています。

NBA(米国)

※画像:https://techblitz.com/startup-interview/carrot_fertility/
アメリカのプロバスケットボールリーグNBA(全米バスケットボール協会)は、従業員向け福利厚生にフェムテックを活用した事例として注目されています。
NBAは福利厚生プロバイダーのCarrot Fertility(キャロット・フェーティリティ)と提携し、更年期サポートや包括的な不妊治療・家族形成支援サービスを導入しました。

これにより、NBAの従業員は更年期に関する支援プログラムや、妊娠・出産、養子縁組に至るまでの家族形成を支えるサービスにアクセスできるようになっています。
例えば、閉経期の症状に対する相談や治療支援、IVFなどの不妊治療、代理出産や養子縁組のサポートといったメニューが含まれており、従業員のライフステージ上の幅広いニーズに応える内容です。NBAはスポーツ業界では先駆的にこのような福利厚生を整備することで、多様な人材が長期にわたって働きやすい環境づくりを目指しています。

パランティア(米国)

※画像:https://www.nytimes.com/2015/06/26/business/dealbook/palantir-technologies-intrigues-investors-despite-its-mysteries.html
米国のテクノロジー企業パランティア(Palantir Technologies)も、自社の福利厚生にフェムテックサービスを取り入れています。
パランティアはCarrot Fertilityの企業向けプラットフォームを導入しており、従業員に対して更年期支援を含む不妊治療・家族形成支援の福利厚生を提供しています。

具体的な内容としては、閉経期症状の相談・治療支援、不妊治療や妊娠・出産に関するサービスなど、NBAと同様にCarrot社の提供する幅広いメニューを従業員が利用できます。

パランティアは社員の健康と生活を支援するため、このような先進的プログラムに参加しており、従業員のワークライフバランス向上と人材定着を図っています。業務内容がハードなテック企業においても、女性を含む全従業員が長期的に働きやすい環境づくりへの取り組みとして評価されています。

スタンダードチャータード銀行(英国)

※画像:https://www.sc.com/en/news/community-investment/futuremakers-women-in-tech/
スタンダードチャータード銀行(本社:イギリス・ロンドン)は、グローバルに展開する企業として更年期ケアに関する先進的な施策を打ち出しました。

2023年10月27日付の公式発表によれば、同社は全世界の従業員およびその配偶者・パートナーを対象に、更年期症状の治療費を医療保険でカバーする制度をグローバルに導入しました。

これにより、更年期障害に対する診療や処方薬などを従業員が経済的負担なく受けられるようになります。2023年11月の時点で全従業員の約3分の2がこのカバレッジの下に入り、2024年4月までに全従業員への適用完了を目指すとしています。

この医療保険の拡充と並行して、スタンダードチャータード銀行は職場における更年期への理解促進とサポート体制の強化にも取り組んでいます。具体的には、更年期に関する社内ツールキットや会話ガイドを作成し、社員向けのカウンセリング窓口を設置、eラーニングや社内イベントを通じて知識啓発を行っています。

また、更年期症状により仕事に支障が出る社員には柔軟な勤務形態の許可や職場環境の調整(例えば温度調整のできるデスクファンの設置や静かな休憩スペースの提供など)を行い、働きやすさを確保しています。

これらの施策は「健康で誰もが働き続けられる職場」を目指す同社の包括的なダイバーシティ&インクルージョン戦略の一環です。
スタンダードチャータードがこのような更年期支援策を導入した背景には、更年期が女性社員のキャリア継続に与える影響への問題意識があります。同社の人事責任者タヌジュ・カピラシュラミ氏は「更年期への対策を積極的に行わなければ、女性の定着や昇進に悪影響が及ぶ可能性がある。

今回の医療保険拡充と育児休業制度の改善は、誰もが活躍できる包摂的な職場を実現し、優秀な女性人材の離職を防ぐための取り組みだ」と述べています。
スタンダードチャータード銀行は英国内の「更年期フレンドリー企業」にも加盟しており、金融業界における更年期支援のモデルケースとなっています。

サンタンデール銀行(スペイン)

※画像:https://www.santander.com/en/stories/women-in-science-and-technology-the-story-of-three-role-models-who-break-down-stereotypes
スペインに本拠を置くサンタンデール銀行は、他社に先駆けて更年期支援のためのフェムテック導入を行った事例です。2020年に同社は、従業員の更年期ケアを支援する包括的な社内制度を策定するとともに、イギリスのPeppy社が提供する更年期サポート用スマートフォンアプリ「Peppy」を導入しました。

これにより、更年期に差し掛かった社員は専門医療スタッフへのチャット相談やビデオ通話によるカウンセリングを匿名で受けることが可能となり、症状の理解や対処法について個別に支援を受けられるようになっています。

サンタンデール銀行は当該アプリの導入に加えて、社内における更年期ポリシーの整備や管理職向けのトレーニング、社員への啓発セミナーなども実施しました。例えば、更年期症状に関する社内ウェビナーを開催し、人事担当者やマネージャーに対しては部下の更年期を適切にサポートする方法についての研修リソースを提供しています。

この取り組みの背景には、同社が従業員の健康と福祉に深くコミットしていることがあります。サンタンデールは「社員の声に耳を傾け、必要な支援を提供する」企業文化を重視しており、更年期に直面する社員が働きやすい環境を維持するためにいち早くフェムテックを活用した支援策を講じたものです。

導入企業の取り組み要約と今後の見通し

フェムテック導入企業の取り組みを見て分かることは、単なる製品導入ではなく、「社員の声に耳を傾け、データで可視化し、社内外に伝える仕組み」を整えているかどうかが、成功の分岐点になっているということです。

 成果が数値化され、ストーリーとして伝えられるようになったとき、フェムテックは「ただの制度」から、「採用・定着・企業評価を動かす戦略的投資」へと進化します。 2025年以降は、フェムテックの領域がさらに拡張され、介護・更年期ケア・職場内教育などと連動する動きが加速すると見込まれます。

 また、健康経営優良法人認定やESG評価項目において、具体的施策の有無だけでなく、「利用実績・満足度・社内浸透の度合い」が問われる時代が到来しています。
 今後は「導入するだけ」ではなく、「成果を見える化し、企業価値として語る」ことが、ますます求められていくでしょう。

コラム

 私たちは今、“制度”としてのフェムテックに注目しています。でも、身体の知恵は制度よりずっと前から、女性たちの暮らしに息づいていました。 今回は少し視点を変え、古代の女性たちが残した“身体の記憶”に触れてみたいと思います。
女王・巫女・出産と月経─古代女性とフェムケア(古墳時代)

第1章 月経と「穢れ」観念の形成

 古代日本では、月経に対する「穢れ」観念が形成されていきました。

 『古事記』や『日本書紀』には、月経に関する記述が見られますが、これらの記述は、月経を穢れとみなす思想の反映と考えられています。

 このような観念は、女性の社会的地位や役割にも影響を与え、月経中の女性が宗教的儀式から排除されるなどの慣習が生まれました。

第2章 月経と「穢れ」観念の形成

 古代日本において、出産は社会的に重要な儀礼とされていました。特に皇族や貴族階級では、出産に際して特別な儀式が行われ、産屋(うぶや)と呼ばれる専用の建物が設けられました。

 これらの儀礼は、出産を神聖な行為とみなす文化的背景を反映しており、出産に関わる女性たちの社会的地位や役割を象徴するものでした。

第3章 古墳と女性の象徴性

 古墳時代の前方後円墳は、その形状から子宮を連想させると指摘されています。このような形状は、生命の再生や女性の生殖能力を象徴するものと解釈されることがあります。
 
 また、古墳の副葬品や埋葬儀礼には、女性の役割や地位を示すものが含まれており、古代社会における女性の重要性を物語っています。
 このように、古代日本における月経や出産、そして古墳の形状には、女性の身体や役割に関する深い意味が込められています。現代のフェムテックが制度として注目される中で、古代の知恵や文化に目を向けることは、私たちの身体や社会に対する理解を深める手がかりとなるでしょう。

※本記事は、古代日本における女性の身体とフェムケアに関する研究を紹介するものであり、特定の宗教的・文化的解釈を推奨するものではありません。
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免責事項)
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